才能の食べ方

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デビュー作が最初で最後の作品になった小説家たち

人生は最初で最後の物語だ」と、どこかの作家が言っていました。

その人生で小説家としてデビューしたけれど、デビュー作が最初で最後の作品になった小説家たちがいます。

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デビュー作が最初で最後になった小説家」の条件はこうです。

10年以上も2作品目を発表していないこと

もしくはお亡くなりなっていること

この記事では、そんな小説家たちを紹介します。

 

佐藤ラギ『人形(ギニョル)』


佐藤ラギ先生は、2002年に第3回ホラーサスペンス大賞の大賞を受賞し、華々しくデビューを飾ります。

ですが、その後数十年も二作目が発表されていません。

あらすじは、こんな感じです。

数多の変態を書きつづけてきたSM小説家。現実世界で欲情することのない彼が、ギニョル(人形)と呼ばれる美しい少年に出会う。

幼さの残る体には過激なプレイの結果だと思われる無数の傷跡。その尻には、警告とも取れる不可解な言葉が彫り込まれていた。

何を尋ねても無言で、何をされても無反応の少年を前にしたとき、小説家の秘められた加虐性が目を覚ます。


主人公はSM小説家です。

作中で、主人公が変態の定義について語っています。

そこがこの作品のすべてだと思います。

佐藤ラギ先生は、ネコ・ヤマモトという名義で第10回ホラー小説大賞に『蜥蜴』という作品を投稿し、最終候補まで残った経歴があります。

その作品は、投稿作なので読むことができません。

数十年も新作が発表されないことを考えると、もう断筆されているかもしれません。

本としてこの世に出たのは『人形(ギニョル)』だけとなります。

興味がある方は、ぜひ手に取ってみてください。

ですが、電子書籍化されていないので、図書館や古本屋やネットショップで探すしかないです。

光本正記『紅葉街駅前自殺センター』

原題は『白い夢』らしいです。

光本正記先生は、2012年に第8回新潮エンターテイメント大賞を受賞しデビューします。

あらすじです。

息子を通り魔に惨殺され、妻とも別れ、生きる気力をすっかり喪った男はそのセンターに足を踏み入れた。

再三の説得にも意思を曲げず、淡々と自死への手続を進めていく。

そのころ街では、「切断魔」と呼ばれる連続殺人鬼が凶行を重ね続けて…。

端的にまとめると、自殺が合法化された世界の話

その世界で葛藤する30代の男が主人公。

2013年に『紅葉街駅前自殺センター』として、出版されますが、その1年後に光本先生は不慮の事故でお亡くなりになりました。

光本先生はTwitterを利用しており、現在でもtweetを読むことが出来ます。

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こちらは、生前の最後のツイートです。

『紅葉街駅前自殺センター』はデビュー作であり、遺作です。

この作品も電子書籍化されていないので、ぜひネットショップなどで探してみてください。

 

谷川哀『リベンジ・ゲーム』

谷川哀先生は、カドカワエンタテイメントnext賞を2002年に受賞し、デビューしますが、この作品以降の新作がありません。

あらすじはこうです。

父親の一方的な妄想から野球漬けの日々を送り、名門・明光高校に入った拓郎。

彼は地獄のような狂気の生活を営んでいた。

先輩からの常軌を逸した制裁、父親の理解しがたい躾、そしてライバル大橋の謎の事故死……。

主人公は元甲子園優勝経験者の投手です。

この作品はバイオレンスエログロイかれ野球小説!?だと思います。

主人公の言動がイかれています。

終始、主人公に対して「コイツ狂ってやがる!」と僕は思ってしまいました。

坂本和也『リアルライフーこの時代に生きることを』

こちらはライトノベル作品になります。

坂本和也先生は、この作品で第4回えんため大賞の優秀賞をとり、2003年にデビューします。

小説家としてのデビュー前にゲームシナリオライターとして『ボクと魔王』を手掛けています。

ゲームシナリオライターとしても、その作品が最初で最後です。

あらすじ。

県立花野高校演劇部に所属する骨竜七郎は同じ演劇部の響奈々子の容赦ないつっこみを受けつつも、飄々と毎日を過ごしていた。

そんな日常の中、響は人けのない駐車場で、手から火の玉をだす男と骨竜が闘っている所を目撃する。

問いつめる響に骨竜が語る「試合」の真実とは…。

青春エンターテイメント。


主人公がストリートファイト的なことをして勝ち進んでいく話です。

飄々として掴みどころがない性格を主人公は持っています。

キャラクター同士の会話も見どころで、何よりも文章が読みやすいです。

いろんな意味で熱いシーンが多く、読後「面白かった!」と言える作品でした。

紙としてしか売っておらず、しかも絶版なので、僕は古本屋で手に入れました。

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100円(+税)だったので、どこで買ったかは本好きの方ならお気づきのはずです。

萬屋直人『旅に出よう、滅びゆく世界の果てまで。』

こちらもライトノベルの作品です。

2008年に萬屋直人先生は、第13回電撃大賞で最終選考に残り、この作品でデビューします。

現在、萬屋先生はTwitterを利用しているので近況を知ることができますが、この作品以降、新作を発表していません。

以下があらすじです。

世界は穏やかに滅びつつあった。

「喪失症」が蔓延し、次々と人間がいなくなっていったのだ。

人々は名前を失い、色彩を失い、やがて存在自体を喪失していく…。

そんな世界を一台のスーパーカブが走っていた。

乗っているのは少年と少女。他の人たちと同様に「喪失症」に罹った彼らは、学校も家も捨てて旅に出た。

目指すのは、世界の果て。

辿り着くのかわからない。でも旅をやめようとは思わない。

いつか互いが消えてしまう日が来たとしても、後悔したくないから。

記録と記憶を失った世界で、一冊の日記帳とともに旅する少年と少女の物語。


美しく儚い話です。

萬屋先生がこの作品しか発表していないというのも、作品の良さを引き出していると感じます。

つじつま合わせに過ぎないですが、作中の一冊の日記帳萬屋先生は『旅に出よう。滅びゆく世界の果てまで。』の一作品しかないというのがリンクし、希少価値を高めている気がします。

電子化されておらず、古本屋で買うしかありません。

なんと!ブックオフオンラインでは398円で売られていました。

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ライトノベル作品(且つ、絶版)に100円(+税)以上の値段が付くのは珍しいです。

それだけこの作品に価値があるということです。

山崎燕三『小説ヒミズ 茶沢景子の悠想』

この小説は、古谷実先生の漫画『ヒミズ』のノベライズです。

あらすじになります。

茶沢景子、15歳。

クールで何事にも興味をそそられない彼女が、唯一、心を奪われたもの―。

それは、同級生の住田祐一。

「普通、最高」と断言する彼の身に起こるあまりにもの不遇な状況のなか、茶沢の魂は住田に共鳴していく―。

古谷実の衝撃作『ヒミズ』の新たなる結末を描いた純愛青春残酷物語。

漫画『ヒミズ』をヒロインの視点で読むことが出来ます。

主人公の住田祐一に対して、ヒロインの茶沢景子がどんな気持ちを抱いていたのか知れるので、ヒミズファン必読です。

住田祐一と茶沢景子には大きな共通点がありました。

それは漫画では語られていません。

ぜひ読んで、お確かめください。

この本の作家プロフィール欄を見ると、山崎燕三先生は、この作品でデビューしたとのことです。ですが、現時点でも二作品目がありません。

予想に過ぎませんが、山崎燕三という名前はノベライズを執筆する用のペンネームで、もしかしたら有名な小説家の別名義かもしれません。

この作品は、一度『小説ヒミズ ver. keiko chazawa』というタイトルで2007年に出版されています。

小説 ヒミズ ver.Keiko Chazawa (KCノベルス)


映画の人気に便乗して『小説ヒミズ 茶沢景子の悠想』と改題され、2012年に文庫化されました。

『小説ヒミズ ver. keiko chazawa』と『小説ヒミズ 茶沢景子の悠想』は同じ内容です。

文庫化はされていますが、この記事の2作品目の発表が10年以上もないという条件を満たしているので、山崎燕三先生もデビュー作が最初で最後の小説家であると言えます。

三田村志郎『嘘神』

三田村志郎先生は、2009年に第16回日本ホラー小説大賞の長編部門で受賞し、デビューしました。

ですが、『嘘神』を出版後、10年間も新作が発表されていません。

あらすじはこうです。

「ここを出たくば、生き残れ」。

コーイチたち高校の仲間6人が目覚めると、そこは出口のない部屋だった。

「嘘神」の示す7つのルールが、非常なゲームの始まりを告げる。

男子高校生たちが閉鎖空間でゲームをクリアしながら脱出を目指す話です。

本のプロフィール欄には、三田村志郎先生が小説家デビューしたのは、大学4年次と書いてありました。

ということは、就職活動中もしくは内定後にデビューした可能性があります。

大学卒業間際に、小説家ではなく、会社員として生きていく決断をし、断筆したのかもしれません。

照下土竜『ゴーディーサンディー』

照下土竜先生は、デビュー前の2004年に『ミラの階梯』で第5回小松左京賞最終候補に。

2005年『ゴーディーサンディー』で第6回日本SF新人賞を22歳という若さで受賞します。

日本SF新人賞最年少受賞者として華々しくデビューを飾りますが『ゴーディーサンディー』以降、短編『仏像士』が掲載されたのみで、数十年も新作が刊行されていません。

『ゴーディーサンディー』のあらすじはこう。

監視システム「千手観音」によって、統合的な治安維持が進んだ日本で発達した新型のテロル。

それは、生きている人体に仕込んだ爆弾―擬態内臓による、自爆攻撃であった。

警察の機動隊爆発物対策班に所属する心経初は、擬態内臓を除去することを任務としている。

すなわち、「対象」の人物を捕捉して、生きたまま「解体手術」を施すという仕事。

成功イコール「対象」の死を意味するこの仕事を、機械的に淡々と進める心経であったが…。

 照下土竜先生の作品で一冊の本として刊行されたのは『ゴーディーサンディー』のみです。

最後に

探せば、デビュー作が最初で最後の作品になった小説家はもっと見つかると思います。

小説家として最初で最後の物語」は、その一冊に作家生命としての始まりと終わりも凝縮してあるような気がします。

まるで、小説のように。

なんだかとても素敵だと思いませんか?

最初で最後の一冊」を古書店や図書館の本たちに囲まれながら、また探します。

ここまで読んでいただきまして、ありがとうございました。

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